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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)3270号 判決

原告 石川富雄

〈ほか一〇名〉

右原告ら訴訟代理人弁護士 小川修

被告 安田火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 宮武康夫

右訴訟代理人弁護士 菅原隆

主文

一  被告は、原告石川富雄、同田中藤子、同高梨道子及び同野口クニに対し、それぞれ金五二万五九〇五円及びこれに対する昭和五五年六月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告清水キサ、同鈴木リン、同青木好及び同入澤シゲに対し、それぞれ金七八万八八五八円及びこれに対する昭和五五年六月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告西澤次男及び同西澤繁男に対し、それぞれ金一〇五万一八一〇円及びこれに対する昭和五五年六月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告清水よしに対し、金二一〇万三六二一円及びこれに対する昭和五五年六月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告らのその余の各請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用は、これを三分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

七  この判決は、原告ら勝訴の部分にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告石川富雄、同田中藤子、同高梨道子及び同野口クニに対し、それぞれ金八六万六〇六二円及びこれに対する昭和五五年六月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告清水キサ、同鈴木リン、同青木好及び同入澤シゲに対し、それぞれ金一二九万九〇九三円及びこれに対する昭和五五年六月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告は、原告西澤次男及び同西澤繁男に対し、それぞれ金一七三万二一二四円及びこれに対する昭和五五年六月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  被告は、原告清水よしに対し、金三四六万四二四八円及びこれに対する昭和五五年六月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は、被告の負担とする。

6  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

訴外亡石川コト(以下「亡コト」という。)は、次の事故(以下「本件事故」という。)により事故当日の午後三時三〇分死亡した。

(一) 日時 昭和五五年六月一九日午後三時八分ころ

(二) 場所 埼玉県比企郡小川町大字青山六二の一番地県道上

(三) 事故車 普通乗用自動車(大宮五七た八九二三号、以下「加害車両」という。)

右運転者 訴外亡石川二郎(以下「亡二郎」という。)

(四) 態様 亡コトは、その夫である亡二郎の運転する加害車両に同乗していたところ、同車が事故現場付近道路を進行中、道路脇飲食店に突入する事故が発生した。

2  責任原因

(一) 訴外株式会社ことぶき商事(以下「訴外会社」という。)は、加害車両を所有し、これを自己のために運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条の規定に基づき損害賠償責任を負う。

(二) 被告は、訴外会社との間で、加害車両につき、訴外会社を被保険者とし、限度額を金二〇〇〇万円、保険期間を昭和五四年一二月二四日から昭和五七年一月二四日までとする自動車損害賠償責任保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。

(三) よって、被告は、自賠法一六条一項の規定に基づき損害賠償責任を負う。

3  損害

(一) 葬儀費用      金五〇万円

亡コトの葬儀費用として金五〇万円を要し、原告らはこれを後記4の相続分の割合により負担のうえ支出した。

(二) 逸失利益 金七二六万九二五一円

亡コトは事故及び死亡時六四才の主婦であり、本件事故による同女の逸失利益は次のとおりである。

(1) 就労可能年数 七年

(2) 収入金額 昭和五五年の六四才の女子労働者の平均年収金一七六万七九〇〇円

(3) 生活費控除 亡コトは主婦であり、控除率は三〇パーセントが相当である。

(4) 中間利息控除 新ホフマン式計算法による。

(5) 計算式 1,767,900×(1-0.3)×5.874=7,269,251

(三) 慰藉料     金一〇〇〇万円

亡コトは、本件事故により多大の精神的苦痛を被った。これを慰藉するためには金一〇〇〇万円が相当である。

(四) 損害の填補

原告らは、被告から、本件保険契約に基づき、亡コトの死亡に対する損害賠償として金二一八万〇一三四円の支払を受けた。

(五) 合計

前記(一)ないし(三)の合計額から(四)の金額を控除すると、残額は金一五五八万九一一七円となる。

4  原告らの身分関係及び権利の承継

亡二郎は、本件事故当時亡コトの夫であり、両名間には子がなく、原告清水キサ(長女)及び同鈴木リン(二女)は亡コト(三女)の姉で、原告青木好(四男)は亡コトの弟、同入澤シゲ(四女)は同女の妹であって他に亡コトの相続人は存しない。したがって、亡二郎は三分の二、その余の各原告はいずれも各一二分の一の割合(すなわち各法定相続分)により亡コトの損害賠償請求権を相続取得した。しかるところ、亡二郎は、亡コトの死亡後である本件事故当日の午後六時四〇分に死亡した。原告石川富雄、同田中藤子、同高梨道子及び同野口クニらはいずれも亡二郎の長兄である亡石川竹一(昭和五四年二月二六日死亡)の子であり、原告西澤次男及び同西澤繁男はいずれも亡二郎の姉(長女)である亡西澤こま(昭和二六年四月一七日死亡)の子であり、いずれもいわゆる代襲して亡二郎の相続人となった者で、原告清水よしは亡二郎の姉(二女)であり他に亡二郎の相続人は存しない。したがって結局亡二郎の前記相続分(亡コトの損害賠償請求権の三分の二)について、原告清水よしは三分の一、同石川富雄、同田中藤子、同高梨道子及び同野口クニらはいずれも各一二分の一、同西澤次男及び同西澤繁男はいずれも各六分の一の割合(すなわち各法定相続分)によりこれを相続取得した。そうすると、各原告の取得した損害賠償債権額は、葬儀費用の分を含め次のとおりとなる。

(1) 原告石川富雄、同田中藤子、同高梨道子及び同野口クニらは、いずれも前記3(五)の金額の一八分の一にあたる各金八六万六〇六二円(一円未満切捨て、以下同じ。)

(2) 原告清水キサ、同鈴木リン、同青木好及び同入澤シゲらは、いずれも前記3(五)の金額の一二分の一にあたる各金一二九万九〇九三円

(3) 原告西澤次男及び同西澤繁男らは、いずれも前記3(五)の金額の九分の一にあたる各金一七三万二一二四円

(4) 原告清水よしは前記3(五)の金額の九分の二にあたる金三四六万四二四八円

5  そこで、原告らはそれぞれ、被告に対し、自賠法三条、一六条一項の規定に基づき、保険金額の限度において、請求の趣旨記載のとおりの各損害賠償額及びこれに対する本件事故の発生日であり、かつ、亡コトの死亡した日である昭和五五年六月一九日から各支払済みまで、いずれも民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否及び被告の主張

請求の原因1の事実は不知。同2の(一)の事実中、加害車両が訴外会社の所有車であることは認めその余は不知。同2の(二)の事実は認める。同3の(一)ないし(三)の事実は争う。逸失利益の算定にあたり、生活費控除は五〇パーセント以上とし、中間利息控除はライプニッツ式計算法によるべきである。同(四)の事実は認める。同4の事実中、亡二郎と亡コトが夫婦であったことは認め、その余の事実は不知。なお、原告らは亡コトの慰藉料請求権をも相続取得したと主張しているが、仮に亡コトが当該請求権を取得したとしても、慰藉料請求権の相続は認められないと解すべきであり、原告らの右主張は失当である。

三  仮定抗弁

仮定的に次の各主張をする。

1  亡コトは本件事故当時加害車両運転者である亡二郎と夫婦関係にあったもので、夫婦の一方の過失により交通事故が惹起され、他方が死傷した場合は、相手方に対する損害賠償請求権の全部又は一部が放棄されているものである。

また、亡二郎は訴外会社の代表取締役であるが、本件事故当時加害車両を私用に供していたのであってこれはいわゆる無断運転と同様であるというべきところ、亡コトはこれに無償で同乗していたのであるから、単なる好意同乗ではなく、無断運転車に対する同乗とみて信義則上大幅な賠償額の減額がなされるべきである。

2  原告石川富雄、同田中藤子、同高梨道子、同野口クニ、同西澤次男、同西澤繁男及び同清水よしらの各請求について

(一) 亡二郎は、本件事故の直接の加害者であり、自ら亡コトに対し損害賠償義務を負う者であるから、亡二郎が相続により取得した亡コトの損害賠償請求権は混同により消滅している。したがって右請求権を亡二郎から更に相続取得した旨の前記各原告の主張はいずれもその前提を欠き失当である。

また、仮に右主張が認められないとしても、本件のように加害者が被害者の権利を相続取得した場合には、その逆の場合に被害者救済の要請が働くのと異なり、共同不法行為者間における公平の原則上、当該加害者(亡二郎)の負担部分の限度において訴外会社の債務も消滅するものと解すべきである。

(二) 仮に混同による消滅が認められないとしても、前述のとおり、亡二郎は訴外会社所有の加害車両を私用のため運転していた者であるからいわゆる無断運転と同様であり、しかも本件事故の加害者たる立場にあることに徴すると、同人がこれにより生じた損害の賠償請求権を相続により取得したとして訴外会社の責任を追及することは著しく信義に反し、権利の濫用として許されないというべきであり、亡二郎の権利を前提とする前記各原告らの主張は失当である。

四  仮定抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実中、亡コトと亡二郎が夫婦であったこと、亡二郎が訴外会社の代表取締役であったことは認める。亡コトの本件事故による損害賠償請求権の全部又は一部が放棄されているとの主張及び信義則上賠償額が大幅に減額さるべきであるとの主張は争う。

2  同2(一)、(二)の主張はいずれも争う。共同不法行為者の各債務は不真正連帯債務であって、その一人について生じた混同の効力は他の者には及ばないから、被告の主張は失当である。

第三証拠《省略》

理由

一  《証拠省略》によれば、請求の原因1項(事故の発生)の事実が認められる。右認定を左右するに足りる証拠はない。

二  請求の原因2項(責任原因)の(一)の事実のうち、加害車両が訴外会社の所有車であることは当事者間に争いがないから、訴外会社は同車を自己のために運行の用に供していた者であると認めることができ、他に右認定に反する証拠はない。同(二)(本件保険契約の締結)の事実は当事者間に争いがない。

以上によれば、被告は、自賠法三条、一六条一項の規定に基づき、被害者(後記認定のとおり亡コト及び原告ら)に生じた損害を賠償する責任を負う。

三  損害について

1  葬儀費用

弁論の全趣旨によれば、亡コトの死亡による葬儀費用として金五〇万円を要し、右費用を原告らにおいて後記5において認定の相続分の割合で支出したことが認められ(他に右認定に反する証拠はない。)、右全額を本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

2  逸失利益

《証拠省略》によれば、亡コトは本件事故及び死亡時満六四才の主婦として家事労働に従事していたこと、本件事故に遭遇しなければ、平均余命年数から六四年を差し引いた残存期間の二分の一に相当する七年間稼働し、その間少くとも同人の年齢(六四才)に対応する昭和五五年賃金センサスの産業計、企業規模計、学歴計の女子労働者の平均賃金額である年間金一七六万七九〇〇円を下回らない収入を得ることができたものであり、また、その生活費は収入の四〇パーセントを超えないことが認められるので、これを基礎としてライプニッツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して亡コトの逸失利益の現在価額を算定すると、次の計算式のとおり金六一三万七七五九円(一円未満切捨て)となることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

1,767,900×(1-0.4)×5.7863=6,137,759

3  慰藉料

前認定のとおり、亡コトは本件事故により死亡するに至ったものであるところ、弁論の全趣旨によれば、これにより亡コトは多大の精神的苦痛を被ったものと認められ、これを慰藉するには金一〇〇〇万円が相当であると認められる。右認定を左右するに足りる証拠はない。

4  以上によれば、原告ら固有の損害賠償請求権の額は金五〇万円、亡コトの2及び3の金額を合計した損害賠償請求権の額は金一六一三万七七五九円となり、以上の合計額は金一六六三万七七五九円である。

5  亡二郎と亡コトが本件事故当時夫婦であったことは当事者間に争いがなく、右事実に《証拠省略》を総合すれば、請求の原因4項において原告らが主張するとおりの相続の事実関係が存在することを認めることができる。右認定に反する証拠はない。右によれば原告らは、それぞれその主張のとおりの相続分(原告石川富雄、同田中藤子、同高梨道子及び同野口クニは各一八分の一、原告清水キサ、同鈴木リン、同青木好及び同入澤シゲは各一二分の一、原告西澤次男及び同西澤繁男は各九分の一、原告清水よしは九分の二)の割合で亡コトの右損害賠償請求権を相続取得したものというべきである。

6  被告は、亡コトの慰藉料請求権についてはその性質上相続が認められないと主張するが、亡コトの慰藉料請求権は損害の発生と同時に亡コトがこれを取得したのであって、後記判示のとおり、右請求権を放棄したものと認めうるような特別の事情もない本件においては、他の財産上の損害賠償請求権と同様単純な金銭債権として相続の対象となるものと解すべきである(最高裁判所昭和四二年一一月一日大法廷判決参照)から、被告の右主張は失当である。

四  賠償額減額の主張について

1  亡コト及び亡二郎が本件事故当時夫婦関係にあったことは既に判示したとおりであり、亡二郎が訴外会社の代表取締役であったことは当事者間に争いがない。《証拠省略》によれば、亡二郎は、本件事故当日、訴外会社を早退し、小川町の実家へ行くため加害車両を運転し、亡コトを同車に無償で同乗させていたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  被告は、交通事故により夫婦の一方が加害者、他方が被害者となる場合には、被害者の相手方に対する損害賠償請求権の全部又は一部が放棄されているものであると主張するが、一般的に右主張のように解すべき理由はなく、また、本件において亡コトが亡二郎に対し予め損害賠償請求権を放棄して加害車両に同乗したものと認めるべき特別の事情をうかがうに足りる証拠も全くないから、右主張は採用の限りでない。

3  しかし、亡コトと亡二郎の身分関係、本件事故当時の加害車両の運行目的及び亡コトの同乗形態その他の諸般の事情を考慮すると、本件においては、公平上亡コトに生じた前記損害額について金一一一四万六四三一円(一円未満切捨て)を超える部分を減額するのが相当であるから、原告ら及び亡コトの有する損害賠償債権額は合計金一一六四万六四三一円(一円未満切捨て)となる。

五  混同による消滅及び信義則違反の主張について(原告石川富雄、同田中藤子、同高梨道子、同野口クニ、同西澤次男、同西澤繁男、同清水よし関係)

1  既に認定した本件事故の態様に照らすと、加害車両を運転していた亡二郎は、本件事故の加害者であり、自らもまた不法行為者として亡コトの被った損害を賠償する債務を負うものである。したがって、亡コトと亡二郎間に前記認定の相続関係が生じたことにより、亡二郎の右債務と同人が亡コトから取得した同女の亡二郎に対する損害賠償請求権はその限度で混同により消滅したものというべきである。しかしながら、訴外会社の亡コトに対する自賠法三条に基づく債務もこれに伴ってその限度で消滅するか否かについては、亡二郎が不法行為者として負う債務と訴外会社が運行供用者として負う債務との牽連関係について検討を要するところ、右各債務者の責任は、各自の立場において別個に生じ、ただ同一損害の填補を目的とする限度において関連するにすぎない、いわゆる不真正連帯の関係に立つものと解され、債務者相互間には右の限度以上の関連性はないのであるから、債権を満足させる事由以外には、債務者の一人について生じた事項は他の債務者の債務に効力を及ぼさないものというべきであって、不真正連帯債務には連帯債務に関する民法四三八条の規定の適用はないものと解するのが相当である(最高裁判所昭和四八年一月三〇日第三小法廷判決参照)。してみれば、亡コト及び亡二郎の間に混同を生じ亡二郎の前記債務が消滅したとしても、そのことは訴外会社の亡コトに対する債務にはなんら影響を及ぼさないものといわなければならない。

2  被告は、本件のように加害者が被害者の権利を相続取得した場合には、逆の場合に被害者救済の要請が働らくのと異なり、共同不法行為者間における公平の観点から加害者の負担部分の限度で他の共同不法行為者の債務も消滅するものと解すべきであるとも主張するが、加害者が被害者の権利を相続する場合とその逆の場合とで、権利義務の同一人への帰属を本質とする債権法上の混同の法理に差異を生ずる理由はないうえ、これを実質的に考えてみても、前者の場合と同様、被害者が加害者の義務を承継した場合にも、共同不法行為者間における負担部分の求償問題は残りうるのであるから、この点において両者を区別する合理的根拠はないのである。よって、被告の右主張は採用できない。

3  本件混同による法律関係が訴外会社の債務に何らの影響も及ぼさないことは既に説示したとおりであり、共同不法行為者である亡二郎と訴外会社間の利害調整は基本的に求償権の行使(負担部分の調整)によって解決すべきものと解するのが相当である。

4  被告は、亡二郎が本件事故の直接的加害者であること及び同人は訴外会社所有にかかる加害車両を私用運転中に事故を惹起したのであって右はいわゆる無断運転と同様であるから、亡二郎が訴外会社に対して亡コトから相続した前記権利を行使することは信義則上許されないと主張するが、被告主張の右事実関係は、これをもって訴外会社との間で亡二郎の負担部分を決する際に考慮すべき事情とするのであれば格別、右事情のあることをもって、亡二郎の相続による権利取得及び亡二郎から更に権利を相続取得した前記各原告らの本訴請求が直ちに著しく信義則に反し、権利の濫用として許されないとする理由はないものというべきである。よって、被告の右主張も採用できない。

六  請求の原因3項(四)の原告らが被告から本件保険契約に基づき、亡コトの死亡に対する損害賠償として金二一八万〇一三四円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。そして、前記四項において認定した金一一六四万六四三一円から右金額を控除すると、残額は金九四六万六二九七円となる。

そこで、前記三項5において認定した各相続割合に応じて、原告らの取得した損害賠償額を算定すると、原告石川富雄、同田中藤子、同高梨道子及び同野口クニは各金五二万五九〇五円(一円未満切捨て、以下同じ。)、原告清水キサ、同鈴木リン、同青木好及び同入澤シゲは各金七八万八八五八円、原告西澤次男及び同西澤繁男は各金一〇五万一八一〇円、原告清水よしは金二一〇万三六二一円となる。

七  よって、原告らの本訴請求は、被告に対し、自賠法一六条一項の規定に基づき、自賠責保険金の限度額(金二〇〇〇万円)を原告ら各人の相続割合に応じて配分した金額の範囲内である前記六項掲記の各金員及びこれに対する本件事故の日である昭和五五年六月一九日から各支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから右限度においてこれを正当として認容し、その余は理由がないから、これを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 仙田富士夫 裁判官 芝田俊文 松本久)

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